hiroshi63のブログ

山と妄想あそび

雪野山


視野の左から雨乞岳と綿向山
正面から右に高畑山から油日岳への南鈴鹿連山
右に飯道山と阿星山、そして右隅に三上山
尾根上の大岩の上から眺める山々の並び
古代の人たちも眺めたに違いないこの景観
氏長の墓を造るため幾度も幾度も目にしたであろうこの広がり


山頂空間は前方後円の型をなし
石積みの名残が囲む山頂は切り開かれ蒲生野の臍となる
北部の見通しが良く、霊仙山がドンと座っていた


死者は何処に行くのだろう
生者は何処に送るのだろう
剣や鏡は旅の必需か
誰ぞに示す権威の印か
死者は暗い石棺の中で何をも知ることはないだろう


1700年前の空と野を想う
季節の移ろいを想う
石を積む人夫の服装や履き物を想う
食べ物を想う
道具を想う
そして心の内を想う


古代の天候を想う
蒸しかえる空気、台風の烈風
比良から吹き下ろす寒風に大雪
自然の恵みを想う
作物の実りを想う
果樹に米や野菜の収穫
狩猟に漁労の成果


里は長かった夏の空気が去り乾いた風が吹き始めた
栗は落ち、アケビは開く
百舌鳥が泣きアキアカネが舞い飛ぶ
植物のうちなるプログラムは猛暑に狂うことなく
生き物の習性は保たれている


遅かった秋風に吹かれながら馬の背を歩き社に降る
小さな孤立山陵で遥かな時を遡る山歩きであった

宝永山


火口に向かう水平道から揺蕩う雲海を眺めた
ガスの隙間から差し込む光の中それは生き物のようであった
斜面の下方にある街は雲に蓋をされ望むことが出ない
かわりに雲海の上にいく筋もの光柱が賑やかな空を作っていた


黒い礫の流れる斜面にオンタデの点在
雲間から差し込む光に黄葉は輝き
黒と黄緑が混じる黄金の大きな楕円は
深く黒い世界に浮かび上がる幻の園のようで
現(うつつ)の光景であることを疑った


広大で穏やかな斜面に吹き出した膨大な火山礫は
火口とその縁に降り積もり
巨大な蟻地獄の如きすり鉢を、そして
砂時計の砂山のような山を造った


火口と新山の斜面は崩落ギリギリの安息角を保つ
柔らかく滑らかな曲線と円で構成された広大な立体世界は
見る者の中に落ち着きと安心を与え
生理的な「快」を引き起こす
そして「快」の感覚は「美」の認識を作る
「美」とは自然の造形から生まれるものなのだ


流れる足元を一足一足踏みしめながら
斜面に引かれたまっすぐな斜線を登る
踏み出した一歩は半歩ズリ下がり遅々とした歩みとなる
気持ちの良い直線は意欲とエネルギーを奪う道であった


直線道の上方は鋭角なつづら折れ
黒い稲光が火口に向かって落ちるが如く
丸く滑らかな世界に対照的に描かれる直ぐな鋭い直線
妙に違和感のない人工の造形であった


稲光の上部に登った頃
下方よりガスが斜面を舐めるが如く這い上がり
行手の鞍部もガスに包まれつつあった
上下からガスに呑まれる不安のなか
視界はガスに包まれ霧雨が顔を打ち始めた


霧が音を立てて打ちつける雨に変わる頃
遠くから雷鳴が響いてきた
潮時だと判断した私は残りの登りを諦め
稲光のようなジグザクの砂走りを下った
火口に着くとますます雷鳴は大きくなっていた

黒い砂漠


ザックザク
踏みしめる一歩ごとに軋る音
踏み出した足は流され労力と歩速の半分は削がれる
たどり着いた石炭のボタ山のような丘から眺める荒涼感


ここは我が国由一の「砂漠」
通称「裏砂漠」
この砂漠は黒い
砂漠の正体はスコリアと呼ばれる玄武岩質の礫
火山からの噴出物である


黒土に低草の株が照り美しく
黒い砂肌のなめらかさがなんとも心地よい
異質の世界が広がっている
「砂漠」という言葉と地形に惹かれて
はるばるとやってきた甲斐があった
私はひとしきり俯瞰した後、丘を降りた
ザクザク ザザザ ザックザク


        ー昨年の初秋の思い出ー

着生と共生(老木のつぶやき)

     


私は老木。
老化のせいで樹皮の入れ替えが遅くなり彼等に住われてしまった。
言ってみれば我が身は無断借用されている状態なのだが
おかげで老樹としての威厳という利益は得られていると言って良い。
苔に便乗して着生しているヒゲのようなノキシノブも
より厳粛さを増すのに一役かってくれている。
養分のやり取りなどはないといえども
この点からすれば相利共生と言ってもよいかもな。


ところで、私たちはあなた方の目には見えない地中でも
他の生き物と深い関係を持っているのをご存じかな。
菌根ネットワークって言うのじゃが
地中にいる真菌と私の相利的な関係だ。
真菌の菌糸は土壌のミネラルを分解してくれるので
私は根からそれをもらっている。
一方で真菌は私の根から糖分を受け取っている。
見かけの威厳なんかよりもっと実利的なwin-winの関係と言えるな。


まあ、いずれにしても自然界ではどんな植物も
単独では生きていないということじゃな。
あなた方はどうなんじゃ。与え合っておるかな。

鈴鹿のやまなみ


身の丈を超える笹をかき分け三角点に這い出た
その時目に飛び込んできたのは
深く遥かなやまなみ


遠くに御在所岳、雨乞岳、綿向山、イブネにクラシに御池岳
私が見た最高の水墨画
午後の陽に照っている生命感のある笹の向こうに
薄墨で引いた見事な稜線の重なりとグラデーションがあった


鈴鹿は深い
深みの美しさが鈴鹿の魅力でもある
あの稜線にあの稜線
視線を遥かに送り
かつて歩いた道を目を細めて辿ってみた