hiroshi63のブログ

山と妄想あそび

宝永山


火口に向かう水平道から揺蕩う雲海を眺めた
ガスの隙間から差し込む光の中それは生き物のようであった
斜面の下方にある街は雲に蓋をされ望むことが出ない
かわりに雲海の上にいく筋もの光柱が賑やかな空を作っていた


黒い礫の流れる斜面にオンタデの点在
雲間から差し込む光に黄葉は輝き
黒と黄緑が混じる黄金の大きな楕円は
深く黒い世界に浮かび上がる幻の園のようで
現(うつつ)の光景であることを疑った


広大で穏やかな斜面に吹き出した膨大な火山礫は
火口とその縁に降り積もり
巨大な蟻地獄の如きすり鉢を、そして
砂時計の砂山のような山を造った


火口と新山の斜面は崩落ギリギリの安息角を保つ
柔らかく滑らかな曲線と円で構成された広大な立体世界は
見る者の中に落ち着きと安心を与え
生理的な「快」を引き起こす
そして「快」の感覚は「美」の認識を作る
「美」とは自然の造形から生まれるものなのだ


流れる足元を一足一足踏みしめながら
斜面に引かれたまっすぐな斜線を登る
踏み出した一歩は半歩ズリ下がり遅々とした歩みとなる
気持ちの良い直線は意欲とエネルギーを奪う道であった


直線道の上方は鋭角なつづら折れ
黒い稲光が火口に向かって落ちるが如く
丸く滑らかな世界に対照的に描かれる直ぐな鋭い直線
妙に違和感のない人工の造形であった


稲光の上部に登った頃
下方よりガスが斜面を舐めるが如く這い上がり
行手の鞍部もガスに包まれつつあった
上下からガスに呑まれる不安のなか
視界はガスに包まれ霧雨が顔を打ち始めた


霧が音を立てて打ちつける雨に変わる頃
遠くから雷鳴が響いてきた
潮時だと判断した私は残りの登りを諦め
稲光のようなジグザクの砂走りを下った
火口に着くとますます雷鳴は大きくなっていた