hiroshi63のブログ

山と妄想あそび

イワナ



 

初めて野生のイワナを見たのは上高地。河童橋から徳沢に向かう梓川で20センチ以上もあろうかというものがたくさん泳いでいるのを林道から見下ろした流れの中に見たことがある。三十年以上前のことだ。


 初めてイワナを食べたのも上高地だった。富山の折立より黒部五郎岳、西鎌尾根を縦走し槍ヶ岳から下って横尾山荘に泊まった折、夕食に塩焼きが出た。磯魚中心に育った僕は鮎以外どちらかといえば川魚は苦手な方であったのだが、それはクセもなく上品な淡白さを感じる美味なものだった。


 イワナは塩焼きが一番と言われる。きちんと焼かれた塩焼きは頭も骨も食べられる。山中でのイワナ釣りに興じたかの辻まこと曰く、イワナは頭が美味いのだと。確かにイワナの頭は美味い。しかし、頭まで美味しく食べるためには1時間半ほどかけてじっくりと炙り焼きをしないとダメなようだ。塩焼きだと言っても手間と時間がたっぷりとかかる。


 もう十年も前のことになるだろうか。冬の西穂独標に登った後に泊まった麓の宿の夕食に塩焼きが出た。丁寧に焼かれたイワナで頭から尾まで全て美味しくいただいた。すると食べ終えた僕の様子を見ていたのだろう、カウンター内の支配人のおじさんが僕の何も残っていない皿を引き上げたかと思うと横並びに座っていた他の宿泊客に皿を見せて回り「みなさん、イワナはこのように食べるんですよ!」と触れてまわるではないか。まさかのおじさんの行動に、恥ずかしいやら、でもちょっぴり誇らしさも感じるやらと複雑な落ち着きなさを感じたことが思い出される。


 それ以降、久しく頭まで食せるものに出会っていなかった。街中などで出会うものは大抵簡単な塩焼きで身しか食べられなかった。それが、先日訪れた沼田の吹割の滝にある露店のような店で味わうことができた。


 囲炉裏で焼かれる岩魚を目にして、「頭もいけますか?」と尋ねると、オジサンは「いけると思うよ」。
で、決まり。


尾の飾り塩の部分以外全部平らげた。


「イワナは頭が美味い!」