hiroshi63のブログ

山と妄想あそび

熊と間違われた山


能郷白山は奥深い山だ。
早朝まだ薄暗いうちに車を走らせ岐阜の揖斐川を遡る。まだ徳山の集落がダムによって湖底に沈む前の頃だった。季節は秋。登山口まではかなり長い道のりだったと記憶している。


登山口の空き地に車を置いて一路前山に登る。これも結構な登りだった。2時間前後かかったのではないだろうか。前山から眺める能郷白山は色づいた楢などの木々の向こうに映える笹の緑が美しいたおやかな山容の山だった。それまでの急な登りが報われる眺望である。


前山から山頂までは緩やかな傾斜の尾根歩きだったと思う。山頂付近は笹が深かった。伊吹山や加賀の白山は近くに見えていたはずだがどうも記憶に残っていない。


一人占めの山頂で昼食をとった後だったと思う。北側のルートである温水峠からの道を探索に出かけた。山頂から少し下ったところで眼前の笹原の一部がざざっと音を立てて波打ったものだからドキリとした。熊が出ても全くおかしくない奥山なのだから。
さらに、次の瞬間またまたドキリを味わうことに。


前方の波打った笹の中から「キャ~ クマ!!」との叫び声がしたからだ。ほんとに熊が出たのかと思った。身を固くして立ち止まり、波打った笹の方を注視し、そして身構えた。笹の隙間から現れたのは声の主だった。
先方もすぐに僕を認め、「クマかと思った!」と僕の方ではなく後ろを振り返りながら言った。


女性の二人連れであった。僕は動揺が表れぬよう平静に努めた。先方はちょっとバツが悪そうな表情で僕を横目に山頂に向かっていった。何のことはない。僕を熊だと間違った人に僕が驚いていたわけだ。僕もバツが悪かった。


あの時女性たちからお詫びの言葉はなかったと思う。人を熊だといって脅かせたと言うのに。まったく失礼な話である。
晴天の空に伊吹山も白山も思い出せないのはその女性のせいかもしれないと思うと恨みの感さえ覚える山の思い出である。