hiroshi63のブログ

山と妄想あそび

山小屋の風呂



御嶽山でのこと。頂上には昼の早い時間に着いた。このまま頂上付近の小屋に泊ったのでは時間をもてあます。そこで五の池まで足をのばし、そこの小屋に泊ることにした。
頂上より賽の河原を経て五の池方面に。下りとはいえほどほどの疲れが出ていた。小屋に着きやれやれ。土間を箒で掃いているおじさんに宿泊を申し入れた。
しかし、帰ってきた言葉に全身の力が抜けてしまいそうになった。いや、抜けてしまった。


「今日はもう小屋を閉めるので泊められないよ。上の小屋に行ってくれるかね」
おじさんは掃除の手を止めることなく,こちらの顔も見ずに言った。


「・・・・・ ああ、そ・う・で・す・か」 
強引に泊めろとは言えるはずがなく、脱力した重い体を引きずるように歩いてきた道を登り返した。


二の池まで戻った僕は近くの小屋に泊ることにした。こちらは間違いなく営業中。風呂まであるときた。疲れ切った体にはありがたい。


夕食前にひと風呂浴びようと浴室に直行。先客に若い男が2人いた。浴槽はヒノキ造りだろうか、2人が身体を折りたたんでやっと浸かれるぐらいの小さなものだった。
脱衣場で服を脱いで、いざ浸かろうと浴室に入った時、先客の男たちが湯船の前で躊躇うように立っている。その視線の先にある湯の表面にはたくさんの浮遊物が浮かんでいるのだった。一見して人の肌から剥がれ落ちたものであることは明らかだった。


かけ湯禁止の書き札が目に止まる。3人しばし躊躇。
しかし、先客の男のうちの一人が突然「人類みな兄弟!」と言いながら果敢に浸かってしまった。
僕は迷った。どうしよう。服も脱いだし、おおらかな掛け声も聞いた。


「入ってしまえ」ドボン。だけど、湯の表面を見ていると長くは入っていられない。
早々に上がって体を拭いた。
湯上りなのにさっぱりどころか体に触れた浮遊物が気になってどうにも落ち着かない。
入らなければよかった。


「人類みな兄弟」につられてしまったことを後悔した。
そしてその夜、五の池小屋のオヤジと風呂の男を恨んだ。