hiroshi63のブログ

山と妄想あそび

クマ



5月中旬、残雪期の白山に登った帰り、白峰村から勝山に超える峠手前の車道で熊を見た。


峠に向けて車で登っていると路肩に止めた軽自動車のおじさんが僕の車を呼び止めるので何事かと車を停めてみると熊が道路を横断したのだと言う。
おじさんは後続車をわざわざ止めることまでするなど、興奮状態だったようだ。



車を降りた僕は熊が横切ったという方を指し示すおじさんの指先の沢に目をやった。熊は雪に埋まった沢をすでに横断し川の向こう岸の雪面にいてこちらを見ていた。大きな熊だ。


しかし、その動作にはこちらに対する警戒や威嚇といったものは現れておらず、ゆっくりとした動作で対岸の雪面を降り始めた。その後もこちらにほとんど関心を示す様子もなくどんどん下って行く。おかげで僕はゆっくりと野生の熊を見ることができた。


ふと気づけばおじさんは車に乗って去っていた。あんなに勢いづいて他人の車まで止めたというのに。
 


野生の熊を見るのはこれが2度目である。1度目は南アルプスの仙丈ケ岳に登った際、北沢峠への林道でバスの車中からの見た子熊であった。この時も林道を横断して谷側の藪に入ろうとする時でほんの一瞬であった。おそらく子熊の前には親熊も横断したのだろうが可愛い子熊だけでも見ることができて幸運だった。

 


これまでの二回の遭遇は安全な状況でのものだったが、遭遇したわではないもののちょいと緊張をしたこともあった。


昨年の10月、白山の下山時のこと。長い観光新道の下りも後もう少しを残すばかりという森の中で、動物臭が急に強まった。歩調を落とし辺りを見回しながらゆっくりと下るにつれ匂いはより強くなっていく。生々しく、つい今しがたまでその辺りにいたであろうことが推察できる。


ただ問題はその臭いの種類であった。猪や鹿のものはこれまで幾度となく嗅いだ経験があるのでそれだと判断はできるのだが、その匂いはそれらではないのは明らか。匂いの強さとそれなりの範囲に漂っていることを考え合わせると大型の獣のものであることは間違いないだろう。


すると…熊か?と考えるには時間はかからなかった。


辺りの木々を見渡し爪痕を確認しながら足早にそこを立ち去った。街道の車道や林道よりももっと遭遇に似つかわしい山中のことである。


あれはクマのものだったのかどうかと考えるのだが、どうにも確かめようがない。
しかし、匂いの主に出会わなかったことが幸いであったということは確かなことのようだ。