hiroshi63のブログ

山と妄想あそび

回想 初めての槍ヶ岳


富山県有峰の折立から入り、槍の山頂を踏み上高地に下った。有峰口からはヒッチハイクしてトラックに有峰湖まで運んでもらった。


太郎平の小屋には僕を含めて4人しか宿泊者はいなかった。夕食後、炬燵に座る3人の登山者の中にお邪魔した。
この日はどうしたことか普段は人見知りの自分がトラックを止め、見ず知らずのおじさんの中に「いいですか?」と入っていく。人には自分でも気づかない側面がある。この日は何かのはずみで内なる多面体が転げて大胆な面が出たのかもしれない。


炬燵の正面の人が自身に言い聞かせるかのように力を込めて言った。「薬師もいい!雲ノ平もいい!黒部五郎もいい! この周遊コースは何度来てもいい!」この山域の良さを堪能した満足を力説するのであった。槍を目指す僕には、等高線をよく読んで宿を決めなさいと助言した。


右隣のおじさんは、黒部五郎小舎までは距離もアップダウンも結構あると言う。すかさず左隣のおじさんは、ちょっとがんばれが双六小屋まで行けると言う。


僕は黒部五郎小舎か三俣山荘まで行ければいいと考えていた。知人から黒部五郎のカールではたっぷり時間をとって堪能すべしとの情報をもらっていたからである。3人ともよくしゃべってはいたが疲れてもいたようだ。早々に散会し寝床に向かった。


翌日、秋晴れの気持ちの良い縦走だった。振り返る薬師岳の大きさと座りの良さ、柔らかい尾根の曲線が風格と美を備えていた。
黒部五郎のカールは穂高の涸沢のアルペンムードとは違って和の庭園的な空間を作っていた。知人の助言に従ってしばし岩の形と配置を楽しんだ。


夕方まではまだまだ時間があった。カールに惜しみながら先に歩を進めた。三俣岳への登りは急登で体力が消耗したが、鷲羽、水晶、雲ノ平、薬師、黒部五郎と円座する峰々を目にすると疲れもすっ飛んでしまった。


双六小屋に泊まった翌日槍を目指した。長い尾根だった。初めての槍先はとても狭く空が近かった。
槍沢の下りも長かった。徳沢か明神か、行けるところまで歩くつもりだったが結局横尾の山荘に泊まることにした。ここからだと午前中に上高地のバス停には十分かと芽を出した弱気が自身に言い聞かせるように決断させた。決断は正解だった。そこには風呂があったうえに夕食にはイワナの塩焼き付ときた。ここは山小屋か?と思わぬ幸運に自分の判断を褒めた。


翌日、昼前に上高地に着くと、飛騨高山行きではなく大阪行きの高速バスが待っていた。京都駅にも立ち寄るという。またもや幸運のめぐり合わせである。客の少ないバスのなかで2人分の座席でくつろぎ、3泊という初めての縦走を振り返りながら次の黒部源流域の周遊に思いを馳せていた。