hiroshi63のブログ

山と妄想あそび

チョッキリのイリュージョン





昨年、秋も半ばを過ぎた頃、よく行く森の中を歩いていると、視界の右側に背後から前方に一枚の葉が一直線に飛ぶのが見えた。ほとんど風が吹いていなかったこともあり、葉は進路を変える様子もなく僕の目の前5~6メートル先の地面に落ちた。


この時期早い樹種は紅葉し落ち始めている頃。しかし、それらは風がなくても揺れ舞うように落ちる。滑空はしない。しかし、その葉は見事に飛行した。ちょっとしたイリュージョンであった。



地面に落ちた葉を拾い上げてみるとコナラの葉であることがわかった。どうしてあのような飛び方ができたのか不思議で、葉をじっくりと観察してみるとあることがわかった。
葉の軸に木の枝の部分が下向きに数ミリ付いており、紙飛行機のように重みのバランスがとれるようになっていたのだ。ちょっとした戦闘機のフォルムである。


掴んだ葉を落として飛行能力を確かめてみると小さな戦闘機は見事に前方に滑空した。そしてもう一度。3回目も絶妙なバランスであった。



葉は枝と軸の付け根から離れたのではなく、枝の一部分から切り離されている。枝の切り口を見ると折れたものではなく明らかに切り取られているのがわかる。ちょうどチョッキリの齧ったもののように。


そこで、はて、と思った。チョッキリの産卵の時期はもう過ぎているはず。しかも葉にはドングリは付いていない。だれが何の目的で切り落としたのか、と立ち止まって考えた。しかし、そんなことはわかるはずもなし。その時、ある妄想が僕の頭の中に浮かぶのであった。


ひょっとして産卵後のチョッキリの遊びであろうか?と。子孫を残す大仕事を終えた後の娯楽として落葉がすすむ前に得意の齧り技でもって葉を飛ばして遊んでいるのかも・・・
ドングリを葉を残して巧妙に齧り落とす知能を持った虫たちである。葉を落として遊ぶことだってしかねない。より遠くへ葉を飛ばす切り取り方を工夫しながら・・・ 


まったく幼稚でバカバカしい妄想ながら、それは愉快であった。



僕は最後にその葉を橋の上から落とし飛行させた。チョッキリがするように。



葉は円を描いて滑空し、深い谷の木々の中に消えていった。