北横岳
溶岩が作ったという台地の上には
分厚い黒い雲が垂れていた
大きな霜がびっしりと張り付いた凍てた岩の上に立つと
雲に手が届きそうだった
岩を降りた私は
大地と黒雲の天井の狭い隙間を横岳に向かって歩を進めた
ところどころにある登山道両側の岩には
渦を巻くようにエビの尻尾が張り付き
コーティングされた道端の低木や草原はまるで珊瑚のようだった
ふと見回すとあたりはモノクロームの世界なのに気づいた
同時に、「失色」という言葉が頭に浮かんだ
おどろおどろしい生き物に化身した低木を見やり
山頂への登りに取りかかる
すぐに黒雲の中に入ってしまった
霧の向こうにうっすらと小屋が見え
煙突から煙が立ち昇っていた
揺らぐカゲロウは濃い霧を透かしていた
山頂に展望はなく
強風の合間に蓼科山の一部が見え隠れする
眺める体はすっかり冷え切り
凍えぬうちに来た道を引き返した
坪庭の台地に下り周遊する
一帯は依然として色がなかった
そして一段と冷えた空気が頬を刺す
背の高い針葉樹のモンスターはユーモラスで
冷気にひたすら耐えている道端の化粧サンゴは健気だ
そのアンバランスな世界
ここには「色」はなくてもいいと思った
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