hiroshi63のブログ

山と妄想あそび

北横岳


溶岩が作ったという台地の上には
分厚い黒い雲が垂れていた
大きな霜がびっしりと張り付いた凍てた岩の上に立つと
雲に手が届きそうだった
岩を降りた私は
大地と黒雲の天井の狭い隙間を横岳に向かって歩を進めた


ところどころにある登山道両側の岩には
渦を巻くようにエビの尻尾が張り付き
コーティングされた道端の低木や草原はまるで珊瑚のようだった
ふと見回すとあたりはモノクロームの世界なのに気づいた
同時に、「失色」という言葉が頭に浮かんだ


おどろおどろしい生き物に化身した低木を見やり
山頂への登りに取りかかる
すぐに黒雲の中に入ってしまった
霧の向こうにうっすらと小屋が見え
煙突から煙が立ち昇っていた
揺らぐカゲロウは濃い霧を透かしていた


山頂に展望はなく
強風の合間に蓼科山の一部が見え隠れする
眺める体はすっかり冷え切り
凍えぬうちに来た道を引き返した


坪庭の台地に下り周遊する
一帯は依然として色がなかった
そして一段と冷えた空気が頬を刺す
背の高い針葉樹のモンスターはユーモラスで
冷気にひたすら耐えている道端の化粧サンゴは健気だ
そのアンバランスな世界
ここには「色」はなくてもいいと思った