hiroshi63のブログ

山と妄想あそび

幸運の珍変木


霊峰山頂から尾根筋を少し下ると
雪面から案内板が生えていた


「ブナの珍変木」


「唐変木」はもはや死語だが
こんなところで新語が生まれていた


いかにも行為をそそる凍れたアーチ
風雪の仕業であるらしい


くぐれば幸せを呼ぶと言う
すでに何人もが実行したようだ


当然ながら僕も四つ這いで
こうう「」のフォルムに
突入したのだった

山のサンゴ


「ねえ、じいじ 
ここにはニモやドリーはいなかったの?」


「ここにはいないよ、水の中じゃないんだ
これは高い山の上にあるお花畑なんだ
息も凍るくらい寒い冬になると
畑の葉っぱたちはサンゴになっちゃうんだ」


「へえ~ 山にもサンゴができるんだ!
ねえ、今度見に連れてって」


「そうだな
おまえがこの話を信じてくれているあいだに
連れて行ってあげないとね」

浅間山



早朝の陽光に生と死が並んでいる


「死」の訪れは
六万五千年も前の白亜の頃
三億五千年の繁栄は凍て
時の流れを示準する


「生」の誕生は
十三万年を遡る中新世
やさしくたおやかなドームは
幾多の生を奪った過去をもつ


遥かな尺度で眺めれば
いずれも瞬時の出来事


死と生が静かで穏やかに並んでいる

空目


表皮の細胞は窪みの構造を作り
脳は頭蓋の外に出先を作る
2つの動きが結びついた結果が目だ
Pax6にコードされた巧妙な進化


レンズを通った光子は網膜の視細胞が捕え
波長は電気信号に変換される
軸索を経て送られた信号は
脳の視覚野で画像として組み立て直される
「見え」の知覚とはこういうことだ


しかしここに
構造を持たない眼がある
レンズもフィルムもなく現像の機能もない
それはただ光を通すだけのもの
だからこの日、その目は
あるがままの青空を見ていた

黄金の瞬間



荘厳な光源が頭を出す直前
世界は黄金になる
決して特別ではないありふれた朝


その時
ある者は目覚め
ねぐらを出る準備をするだろう
ある者は狩りを止め
ねぐらに帰るだろう


そして、我々は
黄金の空に手を合わし
涙する


1400万年もの太古から
欠かさず合掌し続ける
かの岩礁と共に