hiroshi63のブログ

山と妄想あそび

夏の色

                                   (再掲)
夏が来れば思い出す遥かな涸沢、青い空
私の場合、夏は尾瀬ではなく穂高である
遠い夏の遠い穂高
40年前に出会ったこれ以上のない夏の色を思い出す


明神、徳澤を過ぎ
3つめの分岐の横尾で川を渡ると涸沢への道になる
屏風岩を見上げながら沢筋を遡ると別天地が見えてくる
幾重の襟合わせたとその向こうの岩峰に青空
眼前の構図と色に感嘆する
もう、肩に食い込む荷の重さも靴擦れのピリ感も感じていない


遡るこの道、かつての氷河が作った道
風化でできた礫は崖の下に崖錐を作り
両崖錐の真ん中を雪解け水が谷を穿つ
安息角を保つ斜面とその流感に心奪われる


夏山は穂高
この一枚が今も涸沢に誘う夏の色

ムカデの山(三上山)



広い平野に残る孤立丘とも呼ばれる小山
視認は近江の各地にとどまらず古都や摂津の山からも容易い


季節は夏、ある日の気まぐれな登山
三上山肩の東光寺に抜ける峠に出るとぐるりが展け
南に緑濃い左右対称の見事な三角錐が迫っていた
頂点の上には梅雨明けの抜けるような青空が深く
明確な色の世界がとても印象的で美しかった


北の古代峠を越え日陽山に着く
岩場に座り山を眺め直してみた
依然と美しく流れる斜面の大きな三角を見ていると
ふとこの山にまつわる伝説を思い出した


かつてこの山を七巻半も巻き付ける大ムカデがいた
琵琶湖を荒らすこのムカデ
俵藤太なる武人が幾里も離れた瀬田の唐橋から
弓矢を射て成敗したというもの
いつの間にか三角山にうっすらと巻きつくムカデが見えてきた


岩場を降りた私はこの山を一巻き歩いてみた
木々が覆う薄暗い中腹の水平道をぐるりと周歩
檜の大木の根を跨ぎ、雑木の木漏れ陽を踏み、ウラジロの群落を抜ける
一周に小一時間、七周半も廻るには陽のある時間を全て費やす必要がありそうだ


一巻き後に山頂を目指した
山頂に上がると陽はすでに高く
南の切り開きから瀬田方面は遥か
唐橋と思しきあたりを望むときらりと点光が煌めいた
藤太の放つ鏃(ヤジリ)からのものかななどという妄想が浮かんだ

立石山



行く先は 朝霧の中 
樹間より差し込む光の筋の中で
白霧が揺らいでいる


濃霧の林道はどこに通じているのだろうか
ひんやりとした空気の中、歩を進めると
ふと午前か午後かも不確かとなり
自身の見当識が失われていることに狼狽えてしまった


谷を遡り尾根に出る頃
霧は朝日の温もりの中に消えてゆき
うっすらと透けゆく白霧の向こうのいつもの景観に安堵する


深い谷にかかる橋の上
上流の山に薄青い霧が木々の上に残り
かつて大陸で見たユーカリの青い森を想起した
あれもまもなく霧散するのだろう


森の道、両側の木々の緑は濃く足元には一面の苔
梅雨の恵みをたっぷりと受けた緑は瑞々しい
ここは四方を緑に塗り込められた異世界
そんな錯覚の中にいた


異世界を抜け、細くザレた尾根を過ぎる
青霧があったあたりに来るとすでに澄んだ緑が広がっていた
山頂の空は明るく広く青い


奥空に向け幾筋ものジェット雲を望んだ
キリッとした白線を上空の風がほどいてゆき
次第に空に揺蕩い解けていった
上空の「時」はきっとここより速いのだ
そんな妄想を抱きながら頂を後にした

妙光寺山


妙光寺山


谷を遡りびわ峠に出ると西風がそよと吹き
首筋の滲んだ汗を飛ばしてゆく
扇に広がるびわ湖の方面を望むと
薄光る湖面の上に薄墨の比良山が映し出されていた


古代峠の噴石によじ登り近江富士を仰げば
シンメトリーな三角は一段と明確だ
裾の流麗な曲線が気品良く優雅で
この地のシンボルであることを誇示している


風化が進む真砂のザレを滑らぬように尾根を進む
山頂に続く尖ったピークを二つ越えると鞍部にはぐれ大岩
攀じ登ってテラスに寝そべると青空は深く
ジェット機が一機、琵琶湖の上に白線を引いていた


山頂は四方に開け、とりわけ近江北方の眺望に優れる
北を望む突出した岩に座し、汗が乾くまで遠望に揺蕩った
視線の先を横切る一羽のカラスを追うと
小さくなる黒点の向こうに雲の白線が比良の奥空に消えていた


西の谷に一気に下れば石棺が一基
整った方石で設えられた墳の暗闇に供花が窺えた
時は千年余りが経つのだろうか
石棺の闇に時の移ろいが秘されているように感じた


出世不動明王の巨石を一回りしてびわ峠に戻ると
峠に吹く風は再び汗ばんだ肌を優しく撫でていった
気まぐれな山散歩に満足した私は峠を下った
さて、次はいつまた周歩しようか、と考えながら

遠足尾根(竜ヶ岳)


乳白の視界の向こうにうっすらと揺らぐ木立の影
幽玄な里の朝霧は次第に晴れゆき渓谷に入るともう空は青かった


小橋の下から水量の伝わる轟音が響き
花崗岩の白い川底の上を澄んだ碧水が流れ下る
林道の瑞々しいアザミが足元に棘葉を伸ばし早る気持ちを鎮めてくれた


尾根へのつづら折りに蝮草がすっくと伸び仏炎包がお辞儀で丁重なるお出迎え
思わず返礼をして通り過ぎた


赤いぼんぼりが一面に転がるアセビの丘を過ぎると
シロヤシオの花が西からの強風に煽られ絶え間なく揺れていた
サバンナを思い起こす草原一帯のシロヤシオの配置は妙
計算や作為が隠れているようであり
生き物の立ち姿のように動的な陣形にも見える
すぐ近くで鹿の群れも妙なる陣形で下草をはんでいた