hiroshi63のブログ

山と妄想あそび

繖山(観音寺城跡)


山は城で城は山
観音寺城は山の上、最古の山城だと言う
雑木の中の急登を大石垣に向かう
木漏れ日にシマヘビが体を温め
幾つかの朽ちた切り株からシロアリが飛翔
上空では燕が群れ舞っていた


東の箕作山との間は枡目の田畑
麦畑は濃い緑の敷物で
水張りの田は空を写す水鏡となる
両者の対比が初夏の平野にアートを描いていた


道端にニガナの黄とカンアオイの緑
門前のモミジの青葉にピンクの羽根
本城跡には藤の花が散らされ
城主の出迎えの心尽くしが嬉しかった


山頂の南北の木立に僅かな窓
北正面に伊吹山
南正面に三上山
ともに近江を代表する三角錐の独立峰が
真ん中の此処を挟んで見合っている
私は二点を結ぶ直線の中心に立った


西には水張りの干拓田と内湖が広がる
最も水位の高いこの時期
その向こうの琵琶湖との境界が曖昧で
一帯は広大な湿地となり
城があった頃の景観を見たような気がした


展望の大石垣を後に下山
見下ろす田に耕運機が一機ゆっくりと這っていた
もう鏡に空は無く濁った茶色が揺れていた
泥田が緑に変わり麦畑が黄金に波打つ頃また訪れてみようと思った

三上山(近江富士)



広い平野に残る小山
孤立丘とも呼ばれる
視認は近江の各地にとどまらず
古都や摂津の山からも容易い
この地の旅人には
旅の帰途に安堵を与える釣鐘となる


一年の計をこの山から始める人は多い
かつては私自身もそうであった


冷気が顔を刺す薄闇に
昨夕より降り積もった雪を踏みしめながら登る
元朝の初陽へのはやる気持ちを抑え
少しづつ急を増す山道を急ぐ


平野の頂点で初陽を浴び
かりそめの満足をもとに365分の1の初日を始める
こんな山登りを幾度かやった


未だに説明しきれぬもどかしさが残るこの行為
信仰を持たぬ己が中に
意識に上がらぬ原始の信仰心とでもいうようなものが潜むのか


宇宙と地の理(ことわり)から辿る世界の認識に
つとめて冷めようと心がけてはいるはずなのだが

赤岳



雪のあるうちに登ってみたかった
諏訪から遠望する焼けた冠雪のそれは
美しく荘厳に輝いていた


朝日に照る眼前の阿弥陀岳は絵画のようにおさまり
登攀の意欲を高める
澄んだ空気の中息を切らして地蔵峠に這い上がった


ピッケルとアイゼンを効かせ硬い雪面を踏みしめる
山頂上空の薄曇は低く、飛び上がれば手が届きそうだった
東空に映る富士は淡墨のシルエット
遥かアルプスは遠い影


文三郎尾根を下る
春の雪山の雰囲気が満ちる雪原の尾根には
優しい緩やかな時間と空間があった

光塵



雑木が両側から生い茂り屋根を作る林道
角を回ると見通しの良い直線に出た
薄暗い林道の先に光の柱が一本
歩を進め近づくと光柱の中に無数の点滅する光が舞う
ゆっくりとゆっくりと煌めく映像
やがて光の粒は波のように密度を変え舞い落ちる
まるでイリュージョンのようであった


光の差し込む林道の天井に目をやると
二羽の小鳥が目に入った
一羽がもう一羽を追うように日の当たる雑木の枝を飛び移る
その度に落ちる光の粒
メジロの仕業だった


光の中に戯れるメジロと光塵
メルヘンチックで幻想的な光景
やがて光はすべて落ち終え光柱は消えた
視線を上げるとすでに枝の揺れはなく
メジロの姿も消えていた


私は儚いイリュージョンの跡を通り過ぎる時ふと思った
メジロの所業は差し込む光が作る舞台を知った上でのことだった、と

ジャミラ


岩目は青空を透かし
白い岩肌は水を欲す


この岩を見た時「ジャミラ」だと思った
孤独で哀しい過去を持つ
悲しきウルトラ怪獣


水の侵食に脆い石灰岩
ジャミラは待ち焦がれた水をたっぷりと得ると
皮肉にもその身を溶かしてしまうのだろう
ああ哀しい物語り


                   ※白崎海岸にて