hiroshi63のブログ

山と妄想あそび

七本槍



林床に差し込む陽を浴びるこれを見た時
格好の良さに綺麗だと感じた
なんでもない木の根は
日の当たり具合によって美術的な様相に変身する


シンメトリーな放射は鋭利な生き物でもあり
未知の生命体にも見えてくる
シャッターを切った直後
身の危険を感じた私は一歩下がった
するとそれはますます私を威嚇するかのように迫った


妙な幻覚となんとも臆病な行動に苦笑い
しかし、此処は賤ヶ岳のまさに主戦場跡
根の棘をよく見ると槍刃が七本
羽柴秀吉の小姓達が奮闘の場なのである
やはり七本槍が睨んでいる

雪原



芝の広場を覆う雪面に足跡はない
一面は無垢の白
雪面のスクリーンに欅の影が投影されていた


欅はその立ち姿が良い
幹の立ちが良い、枝振りが良い


さて、この雪面を舞台に
これからどんな物語が映し出されるのだろうか
そんなことを空想していたら
カラスの影が欅の上を過ぎ去った

御池岳



軍艦と呼ばれることもある
台形の大きな山だ
上辺にはカルストの台地が広がる


点在するカレンフェルトは
墓石と言うより庭園の置き石のようである
積雪時には白砂の寺院庭園さながら
残雪時には白兎に黒兎、白燕など雪形が賑やかである


台地の一頂点である鈴北岳からの眺望は鈴鹿一
北部の眺めに優れ霊仙山と伊吹山の並びもよし
断崖のボタンブチの眺望は鈴鹿ニ
南部に重なる山波のグラゼーションは淡青の水墨画なり


犬上川源流の谷から鈴が岳を経て登った
鞍掛峠から歩いた
コグルミ谷から周遊した
茶屋川を遡り廃村の茨川から遡った
それぞれに趣き異なる山の顔がある


鹿の群れの通過を木になって見送った
木立にとまる2羽のフクロウを見た
焼け原に蕨を摘み
尾根筋や峠のカタクリに癒され
さまざまな陣形をとる林内一面のバイケイソウは
私の気持ちを柔らかく昂らせた


そして次に見るものへの期待を抱きながら
次に登る日を思い描いている

霊仙山


深く雪が積もった冬
何度かスキーをつけて登った
峠に上がる斜面には北畑の廃村
唯一残る小さな寺にも厚い雪がかぶっていた
樹上に猿の群れ
真冬のそれらは愛おしく胸を締め付けさえする


ブナの尾根を過ぎ、笹峠に出る
峠から見上る南霊仙の斜面を前に
覚悟を決め一足一足板をすり上げ雪面にジグザグを刻む
この急斜面、近江随一の稜線への関門である


雪の近江展望台に立つ壮快は比類なし
馬の背のように伸びる稜線越しの主峰
この山のハイライトとなる景観であろう


尾根を辿るもよし
広く緩やかなすり鉢に滑り込むもよし
この尾根筋はおおらかで自由な心持ちにさせる


伊吹山の展望に優れるふたコブの頂を楽しんだ後は
経が峰との間にある谷に滑り込む
約束された会心のゲレンデ滑走の後
台地西端の降り口に一直線の快感が待っている


猿岩で最後の展望に別れを告げ汗拭き峠へ
谷筋の林道をクロカンよろしく軽快に板をスライドさせ
落合に下山すればこの度の山行は終わりである


これが冬の楽しみであった

伊吹山


登るにつれ辺りは暗くなる
八号目から上は雲の中
深い積雪に足取りは捗らない
立ち止まり上方を仰ぐと
黒雲のすぐ下を一頭のカモシカが目に入った
足が腹まで埋まる深雪の急斜面をゆっくりと横切って行った
寒気に冷えきったせい私が感じたのは
野生への感動でも自然の厳しさでもなく
胸を締め付けるほどの寂しさだった


毎冬、積雪が満てばスキーで登った
全く人に会わぬ日もあった
視界の効かない霧や雪の山頂にひとり
雪山への衝動の裏側には不安が
情熱の裏には寂しさがあったのは確かなこと
下山すればまた独りで出かける
そんな繰り返しの中
あのカモシカに自分を投影したということなのだろうか